マウスの開発者の周辺

先日、いくつかのメディアがマウスの開発者エンゲルバート氏を称えるイベントが開催されたことを伝えた。私が目にしたのはZDネットとHOT WIREDのサイトであるが、後者の記事のタイトルは創造力を刺激する。いわく「人間のOSをグレードアップする」である。

エンゲルバート氏は「ブートストラップ協会」を作って、この計画を進めている。OSのグレードアップでパラダイム・シフトを起こそうと言うことらしい。

昔から「OSのバージョンアップ」をしようと、色々なHOW TO本が出版されてきた(「小さいことにくよくよするな」とか)し、宗教などもそうかもしれない。多分、これらの「こうするべきだ」という戦略は、特定のある局面ではそれぞれ正しい、あるいは正しかったものであろう。

ここから私が感じるのは、脳が形成される過程で無意識に学習したものから解放されるのは難しいと言うことである。その形成される状況下ではうまく行った戦略を誰もが引きずっている。状況が変わってしまったにもかかわらずである。

多分OSの一部がハードウエア化してしまったのであろう。この状態から抜け出す方法は、どこでもいつでも通用する法則などないということをOSの一部として取り込むことである。

これを実践するのは容易ではないが、人間のOSは単純ではない。誰かの一言や本の一節という小さなきっかけで、OSのマイナバージョンアップすることができるかもしれない。

ワインバーグが面白いことを言っている。人間は脳の能力の10%しか使っていないと言われるが、では残りの90%は何に使っているのであろうか?

答えはOSのオーバーヘッドである。

本来、彼が言いたかったのはソフトウエア開発で注目しなくてはならないのは、ツールやハード等の人間以外のものではなく、人間が各自のオーバーヘッドをどう減らすかが重要だと言うことである。つまりソフト開発の問題点の解決法は人間の中にある。

彼はISOやCMMのプロセス重視の方法は、方程式から人間の要素を消去するものであると反対の立場をとっている。(有効性は認めているが、CMMは必要なことの半分もカバーしていないと言っている。)

さて、マウスの話に戻るが、私はマウスがゼロックスのパロアルトの研究所で開発されたと思っていた。実際は同じパロアルトでもSRI(スタンフォード研究所)らしい。ゼロックスのパロアルトではイーサネットやビットマップスクリーン、ページエディタ等が作られている。

私は学生時代にゼロックスのパロアルトで書かれた人工知能の論文をいくつか読んで、なぜコピー機のメーカーが、こんな基礎研究をしているのかと不思議に思っていた。卒業して長い時間がたち、クリンジリーの「コンピュータ帝国の興亡」で、その理由がわかった。ゼロックスは1990年代にはオフィスから紙がなくなると思っていた。基礎研究はコピー機に変わるマシンへの先行投資だったわけである。

だがその予想は外れ、相変わらず熱帯雨林は伐採されつづけている。